高齢化社会を迎え、老年性認知症患者が急増しているが、認知・記憶障害を治す薬を創るためには、記憶のメカニズムを解明することが必要である。私は、情動によって記憶が左右されるメカニズムを解き明かすことにより新しい認知症の治療法を開発したいと考えた。情動は脳の中で扁桃体とよばれる部分で形成され、記憶は海馬と呼ばれる部分で形成される。したがって、扁桃体と海馬の機能的関連を探ることが、情動と記憶の関係を解き明かす鍵となる。 平成15年度においては、麻酔ラットを用いた電気生理学的研究を行い、扁桃体の外側基底核(BLA)から海馬の歯状回(DG)に至る神経路において、シナプス可塑性の指標となる長期増強(LTP)が誘導されることを確認した。またこのLTP誘導には、NMDA受容体が関与しないことを明らかにした。平成16年度においては、同じ実験系でBLA-DG経路のLTP誘導機構を薬理学的に解析し、電位依存性L型Caチャネル、ドパミンD2受容体の関与を明らかにした。また、アドレナリン作動性神経、アセチルコリン作動性神経、セロトニン作動性神経について調べ、これらは関与しないことを明らかにした。さらに平成17年度においては、Ca^<2+>/カルモデュリン依存性蛋白リン酸化酵素の関与を明らかにした。こうしてBLA-DG経路のLTPの機序が解明できたことから、今後はそれを修飾することにより記憶を増強する新規薬物を探索する手がかりが得られた。
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