研究概要 |
活性型ビタミンD[1α,25(OH)_2D_3]およびその誘導体のがん細胞に対する作用は、白血病、乳がん、前立腺がん、大腸がん、皮膚がん、肺がん、肝がんなど多種類の細胞で検討され、in vitroの実験では増殖抑制・分化誘導作用を示すことが報告されている。しかし、in vivoではin vitroの実験のような有効性が認められない場合も数多く、in vivoの場合には、ビタミンD誘導体の代謝速度や血中での安定性などが強く影響する。また、ビタミンD誘導体を動物に投与して、がん細胞に対する腫瘍形成抑制作用を検討した場合、宿主個体では、同時にCa代謝調節作用や免疫抑制作用などの様々な活性が誘発される。したがって、がん治療薬として有効なビタミンD誘導体を開発するためには、in vitroでの実験に加えて、ビタミンD誘導体の体内動態も考慮できるin vivoの実験系が必要である。さらに、Ca代謝調節作用が影響しない環境下で腫瘍形成抑制作用のみを評価することが重要である。しかし、現在のところ、ビタミンD誘導体の腫瘍形成抑制作用について、がん細胞に対する作用とそれ以外の生物活性を分離して評価できる実験系は確立されていない。本研究では、1α,25(OH)_2D_3の腫瘍形成抑制作用のメカニズムを解析できる実験系の確立、ビタミンD誘導体による腫瘍形成抑制作用の評価を行った。特に腫瘍形成には、がん細胞の増殖だけでなく、がん細胞の他臓器への転移、血管新生の誘導など様々な過程が関与しているため、緑色蛍光蛋白質(GFP)発現マウス肺癌細胞(LLC-GFP)を用いて、増殖・転移・血管新生の点から作用メカニズムを解析した。研究成果は以下の通りである。 1)1α,25(OH)_2D_3は、がん細胞の増殖能・転移能・血管新生促進能のすべてを抑制した。 2)ビタミンD受容体(VDR)遺伝子欠損マウスを腫瘍形成評価モデル動物に用いることにより、血中の1α,25(OH)_2D_3がVDRを発現するLLC-GFP細胞に作用して腫瘍形成を抑制すること、腫瘍形成抑制作用に宿主個体のCa代謝調節作用は関与しないことを明らかにした。また薬理量だけでなく正常域の濃度の血中1α,25(OH)_2D_3と腫瘍形成量に負の相関性があることを明らかにした。 3)Ca代謝調節作用が弱く副甲状腺機能亢進症や乾癬の治療薬として臨床応用されているビタミンD誘導体(22-oxacalcitriol)が高Ca血症を惹起することなく、腫瘍形成を抑制することを明らかにした。 4)25-Hydroxyvitamin D_3(25-OH-D_3)および1α,25(OH)_2D_3が側鎖24位の水酸化だけでなく、3位水酸基の異性化によっても不活性化されることを明らかにした。 5)ヒトにおけるビタミンDの栄養指標である25-OH-D_3新規定量法を確立した。 以上より、1α,25(OH)_2D_3やその誘導体が療治療・予防に有効であることをin vitro及びin vivoで明らかにした。
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