研究概要 |
本研究により、1α,25(OH)_2D_3やその誘導体が癌治療・予防に有効であることをin vitro及びin vivoで明らかにした。研究成果は以下のとおりである。(1)Ca代謝調節作用が弱く副甲状腺機能充進症や乾癬の治療薬として臨床応用されているビタミンD誘導体(22-oxacalcitriol)が、主に側鎖の脱水反応またはA環3位水酸基の異性化反応により不活性化されることを明らかにした。また、側鎖脱水反応および3位異性化反応の両代謝系に関与する酵素は、これまでに発見されている代謝酵素とは異なり、2つの代謝系を相互に調節するメカニズムが存在することを見出した。(2)ビタミンD誘導体の代謝酵素に種特異性があり、動物の結果をそのままヒトへ外挿できないことから、既知のビタミンD代謝酵素を発現する大腸菌発現系が非常に有効な活性スクリーニング法となることを確認した。(3)1α,25(OH)_2D_3がビタミンD受容体(VDR)を介して、LLC-GFP細胞の細胞周期をG1期に停止させることにより増殖を抑制し、Matrix metalloprotainase-2,-9発現を抑制することにより転移を抑制し、血管新生促進因子の発現抑制を介して血管新生を抑制することを明らかにした。(4)VDR遺伝子欠損マウスを腫瘍形成評価モデル動物に用いることにより、血中の1α,25(OH)_2D_3がVDRを発現するLLC-GFP細胞に作用して腫瘍形成を抑制すること、腫瘍形成抑制作用に宿主個体のCa代謝調節作用は関与しないこと、薬理量だけでなく正常域の濃度の血中1α,25(OH)_2D_3と腫瘍形成量に:負の相関性があることを明らかにした。(5)22-oxacalcitriolが高Ca血症を惹起することなく、腫瘍形成を抑制することを明らかにした。 本研究を通して、活性型ビタミンDの抗腫瘍活性を遺伝子、細胞、動物個体レベルで正確に評価し得る実験系を取得することができた。これらの方法を駆使し、活性型ビタミンD合成グループとの緊密な研究連携を展開することにより、抗がん活性に優れた新規ビタミンDアナログが開発されるものと期待される。
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