研究概要 |
グラム陰性細菌の1種であるヘリコバクター・ピロリ(H.pylori、ピロリ菌)は胃および十二指腸の炎症、潰瘍、更にガンに関与することが知られている。ピロリ菌由来の病原因子が同定できればピロリ菌に起因する疾患の予防、治療、医薬品の開発に直接結びつくことから、病原因子に関する研究が行われている。一方、グラム陰性細菌のエンドトキシン(LPS)は誘導型NO合成酵素(iNOs)を誘導し多量のNOを産生することが広く知られている。本研究の目的は、病原因子の候補の一つであるピロリ菌LPSの胃粘膜に対する作用と、LPSによって産生されるNOの役割について検討することである。今年度は、(1)ピロリ菌の大量培養とLPS抽出精製法の確立、(2)ピロリ菌の対照とする大腸菌LPSに関するin vivoでの検討を行った。 本研究では、比較的多量のピロリ菌LPSを要するが、同菌のLPSは市販されていないため、まず同菌の大量培養法を確立する必要がある。試行錯誤の中で、微好気性の同菌を培養するために、低酸素濃度を保ったケース内に振蕩培養器を設置して長時間培養するシステムを構築し、菌体からフェノール-水抽出法で得た粗製LPSを酵素消化法で精製することに成功した。 本研究では大腸菌LPSをピロリ菌LPSの対照としている。LPSにより誘導されたiNOS由来のNOとシクロオキシゲナーゼ(COX)との相互作用を解明するために、LPS投与後のラット胃組織中のNO濃度、PGE2レベル、iNOS, COX-1,-2のタンパクおよびmRNAレベルに対するiNOS選択的阻害剤(1400W)、非特異的COX阻害剤・インドメタシン、COX-2選択的阻害剤・NS-398の効果を検討した。その結果、胃上皮組織中においてiNOS由来のNOはCOX2活性に影響せず、COX活性はiNOSのNO産生に関与していることが明らかとなった。In vivo敗血症モデルにおける胃組織中で産生されたCOX活性およびPGE2がiNOS-NO産生系を刺激するという結果は胃粘膜を恒常性を維持しようとする機構で重要な役割を果たしている可能性がある。
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