研究概要 |
昨年度確立した昆虫由来のSf9細胞の発現系よりATP受容体チャネル(P2X受容体)のタンパク質を精製し,液中において原子間力顕微鏡観察を行なった.N末にヒスチジンタグを施したタンパク質を試料とし,基板にはマイカを用い,タッピング・モードで観察を行なった.純水中で観察した場合,個々のタンパク質が分散した像が得られた.タンパク質の高さは3ナノメートル,径は約15ナノメートルであり,これらの値は大気中での観察と一致していた.数個のタンパク質が会合した像も得られたが,この像が生体におけるP2X受容体の多量体構造,群生のいずれに符合するのか現在のところ不明である.ATPを加えた場合,タンパク質の会合が多く観察され,タンパク質の構造が変化することが示唆された.基板への結合を効果的に行なう目的でヒスチジンタグを固定するnitrilotriacetic acidが表面処理されたプラズモン共鳴センサー・チップ上でタンパク質の観察を試みたが,多数のタンパク質の結合が認められたものの,チップ表面の凹凸が大きく個々のタンパク質の構造を描出することはできなかった.現在,凹凸のない表面上にタンパク質を整列させ,解像度を上げる条件を検討中である.また,これと並行して行なった,受容体タンパク質に改変を加え性質の変化を調べる研究では,受容体のイオン・チャネル孔の部分を改変した場合に観察される脱感作について検討を行なった.脱感作の過程を解析した結果,進行は1次,回復は3次以上の速度式に従うことが明らかとなった.このことはP2X受容体が多量体構造を取ることを機能的側面から支持する結果である.
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