研究概要 |
イノシトールモノホスファターゼ阻害剤およびP2Y1受容体拮抗剤の創製を目的として,イソシトール-1-リン酸(IMP)およびアデノシン-2',5'-ビスホスフェート(A3P5P)などの生体内リン酸エステル誘導体のジフルオロメチレンホスホン酸類縁体の合成を検討した.シクロヘキセン-1-ホスフェート誘導体とBr_2Zn・CuCF_2PO_3Et_2のクロスカップリング反応は,高度に酸素官能基化されたシクロヘキセン誘導体のアリル位にCF_2PO_3Et_2基を立体および位置選択的に導入する有用な方法となることが明らかとなった.得られたシクロヘキセン誘導体のジヒドロキシ化により,IMPのジフルオロメチレンホスホン酸類縁体を得た.D-マニトールから数工程を経て,3位にジフルオロメチレンホスホノチオエート(CF_2P(S)(OEt)_2)基を有する2-デオキシリボフラノース誘導体を合成した.この誘導体はTiCl_4存在下シリル化チミン(T(TMS)_2)と反応させると,N-グリコシル化反応がβ選択的に進行した.高いβ選択性は,CF_2P(S)(OEt)_2基が1位に隣接基関与し二環性カチオン中間体が形成され,立体的な込み入りの少ないβ面からグリコシル化反応が進行することに起因することが明らかとなった.本法により得られたヌクレオチドアナログは,チミジン-3'-ホスフェートのジフルオロメチレンホスホナート類縁体に誘導された.ここに得られたヌクレオチドアナログは,A3P5Pの化学修飾により得られたP2Y1受容体拮抗剤MRS 2179のジフルオロメチレンホスホン酸類縁体に誘導可能な合成中間体である.また,3位にジフルオロメチレンホスホナート基を有し,1位および5位のアルコール保護基の異なる光学活性1,5-ペンタンジオール誘導体を合成した.これを共通合成中間体として用いて,二つのアルコール保護基の脱保護の順番を変えることにより,MRS 2179のフラノース環を開環した非環式ヌクレオチドのジフルオロメチレンホスホン酸類縁体をエナンチオ分岐的に合成した.その他,平成14年度までに当研究室で見いだされたプリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)阻害剤,スフィンゴミエリナーゼ(SMase)阻害剤を分子プローブに用いて,PNPの触媒作用メカニズムおよび癌細胞におけるDe novoセラミド合成経路の役割などについて考察した.
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