本研究において以下のことが明らかになった。 マウスにカドミウムを非経口的に投与すると、顕著な肝障害を引き起こすが、コバルトやマンガンなどの2価の金属を同時投与することによって肝障害が抑制される。コバルト、マンガン共に、投与後の血漿中でサイトカイン、特にIL-6の濃度が上昇することから、カドミウムによる肝障害の抑制に、IL-6が関与している可能性を検討した。特に、コバルトは、金属結合蛋白質であるメタロチオネインを誘導することがないので、メタロチオネイン以外の作用機構に注目した。その結果、カドミウム投与後に経時的に急性期蛋白質であるSerum amyloid A (SAA)の血中濃度が上昇したが、コバルトの併用によって、ほぼ完全に抑制された。SAAの抑制は、分泌の抑制ではなく、肝臓中での合成抑制によることを定量的RT-PCRによって確認した。しかし、カドミウム、コバルトの併用時にIL-6の血中濃度、肝臓での発現のいずれも相加的に上昇したことから、SAAの抑制をIL-6で説明することはできなかった。SAAの発現は、IL-6およびTNF-αによって制御されているので、肝臓におけるTNF-αの発現を定量的RT-PCRで調べたところ、カドミウム投与で上昇し、コバルトの併用で抑制された。したがって、カドミウムは、一過性に肝臓にTNF-αを誘導し、2次的にSAAを誘導するが、コバルトによってTNF-αの誘導が抑制されることがわかった。この作用がコバルトによる肝障害抑制作用と直接的に関わっているかどうかは、今回の実験から確定することはできなかった。一方、LPSによる肝障害もコバルトで抑制されるという知見を得ており、コバルトが多様な作用を持つ可能性が示唆された。今後、DNAmicroarrayなどを用いた網羅的な解析により、コバルトの作用を解明することで、金属によるサイトカイン誘導の機構と意義を解明したい。
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