研究概要 |
ダイオキシンは75種類の構造異性体があり、そのなかでも2,3,7,8-四塩化ダイオキシン(TCDD)は最強の生体影響力を持つ。その作用は多岐にわたり、体脂肪ならびに筋肉組織の減少を伴う体重の減少、心不全、骨形成の異常、催奇形成、繁殖抑制、免疫抑制などを示すとともに、発ガンプロモーター作用をも有することが知られている。2,3,7,8-TCDDの毒性を検討する上で細胞レベルでの解析は有効であると考えられ、われわれはヒト間葉系幹細胞の多分化能が影響を受けることを見出した。前年度の研究において、TCDD曝露により間葉系幹細胞の脂肪細胞分化の抑制、ならびに骨芽細胞への分化の促進が観察された。また軟骨芽細胞分化に対してTCDDは影響を与えなかった。脂肪細胞分化の抑制因子としてMAPキナーゼが知られているが、この因子は同時に骨芽細胞分化の促進因子であることが知られている。本年度はTCDDならびにAhレセプターがそのタンパク質量を変えることなくMAPキナーゼの活性を高めることを見出した。さらにTCDD曝露により相反する変化を示す遺伝子群をDNAアレイを用いて検索したところ、細胞周期関連因子の発現量が顕著に増加した。これらの結果よりTCDDによるMAPキナーゼの過度の活性化が分化の方向を骨芽細胞分化に有利な方向に細胞を向けるとともに、細胞増殖を刺激することにより分化のプログラムのかく乱を引き起こすと考えられる。
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