本年度は、養鶏場の環境から分離した病原性のサルモネラ(Salmonella Enteritidis ; SE)におけるSEp22の発現調節機構をさらに詳しく解析した。その結果、SEp22の発現はLB培地のような栄養の豊富な培地中では菌の増殖に依存して起こり、対数増殖期では発現が少なく、対数増殖期後期から静止期にかけて発現が急速に誘導されることが示された。菌体からmRNAを抽出してNorthern blot解析およびRT-PCRによる解析を行った結果、SEp22タンパク質の生合成の上昇に先行して、SEp22 mRNAの合成が誘導されることが示された。さらに、RNAポリメラーゼのσ因子の発現をWestrern blottingによって解析した結果、このSEp22 mRNAの生合成はσ38の発現より少し遅れて起こるが、σ70は変動しないことが示された。また、このようなSEp22の細菌の増殖期による誘導は、LB培地中ではくり返し観察された。これに対し、M-9培地のような栄養の低い培地中では、菌の増殖期が静止期になってもSEp22は誘導が見られず、増殖そのものがSEp22の誘導を制御しているのでは無いことが示唆された。さらに、M-9培地にLB培地の成分を一部添加することによってSEp22の誘導が見られるようになった。現在、そのLB培地中の成分を検索中であるが、これまでに調べた結果、各種アミノ酸やグルコースの添加では誘導が起こらないことが示された。この結果は、環境中に分布する病原性のSEがSEp22を発現するためには、貧栄養の環境中で増殖するだけでは充分では無く、LBに含まれる未知の物質のような、栄養豊富な培地中の成分の存在下で増殖することが重要であることを示唆する。現在、多摩川の河川水を採取してSEを培養し、どのような物質が添加されればSEp22が誘導されるのかを解析中である。
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