院内製剤の一つである0.1%トレチノイン(RA)水性ゲル軟膏の品質改良を目的として、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-CD):RAの包接化合物形成による安定性の改善について検討を行った。混練法によりRA:HP-β-CD複合体を形成した。形成したRA:HP-β-CD複合体にエマルゲン408を加えずに水性ゲルの各成分を別々に加える作成法(Method 1)と従来の0.1%RA水性ゲル軟膏のRAの代わりにRA:HP-β-CD複合体を加える作成法(Method 2)の2種類の作成法で、RAとHP-β-CDのモル比1:1及び1:2の2種類の処方のRA水性ゲルを作成し安定性の評価を行った。またRA:HP-β-CD複合体(モル比1:1)が包接化合物を形成しているか検討するために粉末X線回折(XRD)、DSC及びIR測定を行った。1ヵ月後のRA残存率はControlと比較してMethod 1とMethod 2のモル比1:2の処方で有意な増加が起こった。2ヵ月後のRA残存率はMethod 1の2処方で高い残存率が観察された。RA:HP-β-CD複合体におけるXRDはRA特有の結晶構造が消失していた。またRA:HP-β-CD複合体におけるDSC曲線はRA、HP-β-CDに由来する吸熱ピークは消失し、213℃に新たな吸熱ピークが観察された。そしてRA:HP-β-CD複合体におけるIRスペクトルはRAの炭素の二重結合に由来する1600cm^<-1>のピークが1604cm^<-1>にシフトした。以上のことからRA:HP-β-CD複合体は包接化合物を形成している可能性が示唆された。今後、この製剤の臨床効果の検討が望まれる。 1.HP-β-CDの添加によりRA水性ゲル中のRAの安定性は向上した。 2.IR測定・DSC測定・XRD測定の結果からRAとHP-β-CDは包接化合物を形成することが示唆された。
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