研究概要 |
1.13例の腎細胞がん患者から摘出したがん組織と正常腎組織のABCトランスポーターのmRNA発現を比較したところ、トランスポーターの発現はがん組織と正常組織では大きな差はないことが判明した。 2.腎細胞がん13例と膀胱がん4例のトランスポーターmRNA発現量を比較したととろ、膀胱がんでMRP2,MRP6,MDR1aはほとんど発現していなかった。 3.膀胱がんは、シスプラチンやアンスラキノン系抗がん剤に感受性であるが、この薬剤感受性はそれぞれの抗がん剤の細胞外排出トランスポーターであるMRP2,P-糖タンパク(MDR1)の発現が低いこととよく相関していた。 4.腎細胞がんをin vitroで培養すると、MRP2とP-糖タンパク(MDR1)の発現が著しく低下した。この現象は、以前、我々がラット腹水肝がんAH66細胞で見出したものと同様であり、人の腎細胞がんでも普遍的に起こることを証明した。 5.生体内でのAH66細胞のMRP2発現誘導因子は間接ビリルビンであることを明らかにした。さらに、生体内でのみMRP2発現が高い現象は、肝がん細胞に特有のものではなく、正常肝細胞においても同様に起こることを示した。 従って、がん細胞のin vivoシスプラチン耐性は、AH66細胞に特有のものではなく、ヒト腎細胞がんを始めとする他の癌においても起こり得る現象であることを示すことが出来た。即ち、in vitro抗がん剤感受性拭験に基づくがん化学療法レジメンを採用する妥当性に問題があることを示唆する結果を得た。一方、摘出直後の腎細胞がんでは、MRP2やMDR1aの発現が著しく低い症例も見られることから、患者個別の抗がん剤選択が必要であり、がん化学療法の個別レジメンの策定にはトランスポーターの発現検索が有用であることが示唆された。
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