研究概要 |
本研究は、平成15,16年度に、ラット肝癌細胞やヒト腎細胞癌が生体内にあるときにはシスプラチン耐性であるが、in vitroに取り出した癌細胞はシスプラチンに対して感受性となる、いわゆるin vivoシスプラチン耐性という極めて新しいタイプの薬剤耐性様式を見出した。そして、この機序は、癌細胞が生体内に存在する時にはビリルビンによってアニオン排泄トランスポーターの1つであるMRP2が細胞膜上に発現しているため、シスプラチンの細胞内濃度を低下させることによりシスプラチンに対して低感受性(耐性)であるが、一旦癌細胞を細胞外に取り出してin vitroで培養すると、MRP2の発現が消失してシスプラチンの細胞外排泄が低下して細胞内濃度が上昇するため、細胞はシスプラチンに感受性となる事を明らかにしてきた。 本年度は、このような現象がヒト肝癌細胞においても起こっているかどうかを確認する事を目的として、肝細胞癌の生検材料のin vitro薬剤感受性とトランスポーター発現スペクトルの関係を検討することを試みたが、肝生検のような微小なサンプルで薬剤感受性とトランスポーターの発現を確認する事は技術的に困難であり、成果を得ることは出来なかった。しかし、肝細胞癌はin vitro培養系においてビリルビン添加によりMRP2の発現が亢進した為、ラット肝癌細胞で認められたようなシスプラチンin vivo耐性がヒト肝癌においても起こっていることが示唆され、シスプラチンが臨床的に肝細胞癌に効果を示さない理由であることを明らかにした。 しかし、癌細胞によってMRP2をはじめとするABCトランスポーターの発現の程度が異なることも確認できた事から、あらかじめトランスポーターの発現度合いを検査する事により、患者個別にシスプラチンを有効に使用できる可能性も示すことが出来た。
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