本研究は、ラット肝癌細胞やヒト腎細胞癌が生体内にあるときにはシスプラチン耐性であるが、in vitroに取り出した癌細胞はシスプラチンに対して感受性となる、いわゆるin vivoシスプラチン耐性という極めて新しいタイプの薬剤耐性様式を見出した。そして、この機序は、癌細胞が生体内に存在する時にはビリルビンによってアニオン排泄トランスポーターの1つであるMRP2が細胞膜上に発現誘導されているため、シスプラチンの細胞内濃度を低下させることによりシスプラチンに対して低感受性(耐性)であるが、一旦癌細胞を細胞外に取り出してin vitroで培養すると、MRP2の発現が消失してシスプラチンの細胞外排泄が低下して細胞内濃度が上昇するため、細胞はシスプラチンに感受性となる事を明らかにした。また、ヒト肝癌細胞においても起こっているかどうかを確認する事を目的として、肝細胞癌の生検材料のin vitro薬剤感受性とトランスポーター発現スペクトルの関係を検討することを試みたが、肝生検のような微小なサンプルで薬剤感受性とトランスポーターの発現を確認する事は技術的に困難であり、成果を得る事は出来なかった。しかし、肝細胞癌はin vitro培養系においてビリルビン添加によりMRP2の発現が亢進した。すなわち、肝細胞癌や腎細胞癌に対してシスプラチンが臨床的に奏効しない原因は、これらの癌細胞が生体内においてMRP2などのアニオントランスポーターを発現しているためである事を示唆した。一方、癌細胞によってMRP2をはじめとするABCトランスポーターの発現の程度が異なることも確認できた。すなわち、あらかじめ癌細胞のトランスポーターの発現度合いを検査する事により、患者個別にシスプラチンを有効に使用できる。あるいは抗癌剤を選択することにより高い抗癌効果が期待できる可能性も示す事が出来た。
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