最近開発される医薬品候補化合物にはP-gpによって認識されるものが多く、トランスポーターレベルでの薬物相互作用やバイオアベイラビリティの低下が起こることから、医薬品化合物を分子設計する際にP-gp基質となるか否かを判別する方法論の開発が望まれている。しかしながら、判別分析、ニューラルネットワークなど従来のパターン認識アルゴリズムでは、学習用データにおいて各化合物のカテゴリーを知る必要があるが、基質でないことを確認した情報は極めて乏しく、従来法による解析では適切なモデルを構築することができない。そこで、化合物の属性ベクタからなる化合物超空間を想定し、対象となる基質群がその空間内にクラスターを形成していると考え、化合物全体空間の中で目的のクラスターの占める空間を最小化する方法、すなわち化合物全体の変動を最大にしながらP-gp基質の群内変動を最小にする判別理論を構築した。本問題は、数学的には一般化固有値固有ベクトル問題に帰着することが証明された。本方法の開発によって、化合物超空間を3次元空間への写像することができ、P-gp基質の分布を視覚的に捉えることが可能となった。さらに、化合物全体空間を捉えるために現在13万余の化合物の構造情報を集積するとともに、P-gpの基質となる化合物を文献情報より収集・解析した。その結果、本方法の適用によってP-gp基質を十分効率的に判別し得るモデルが構築できる可能性が示された。
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