研究概要 |
姿勢の維持や体の動きを司る脊髄のα運動ニューロンは下行性のノルアドレナリンやセロトニンなどのアミン神経系により調節されているが,それらの機能的役割や神経疾患における変化については不明な点が多い.本研究においては,アミンと運動系に関する以下の知見を得た. 1.セロトニン神経から放出されたセロトニンは外来性に増加させたセロトニンとは異なり,5-HT_<1D>受容体を介して脊髄単シナプス反射伝達を抑制することが示された. 2.生後2,3,4日目にcytosine arabinosideを投与して作製したara-Cマウスおよび遺伝性の運動失調マウスであるrolling mouse Nagoyaを用いて,運動失調および中枢神経系のアミン濃度に及ぼす脊髄小脳変性症治療薬タルチレリンの効果を調べた.タルチレリンは1週間連続投与し,タルチレリン投与前後の転倒回数の変化を比較した.また,小脳,脳幹,脊髄のノルアドレナリン,ドパミン,セロトニンの含量を測定し,タルチレリン投与群と対照群とを比較した.タルチレリンを1週間連続投与することによってara-Cマウスの転倒回数は減少し,運動失調が改善される傾向を示した.しかし,ara-Cマウスの小脳,脳幹,脊髄のモノアミン量はタルチレリン投与による影響は受けなかった.Rolling mouse Nagoyaにおいても,同様にタルチレリンの投与により運動失調の改善は見られたものの,中枢神経系のモノアミン濃度に対する作用は見られなかった. 3.マウスの屈曲反射は反復刺激により遅い成分が著しく増強する.ストレプトゾトシンを投与して作製した糖尿病モデルマウスではこの反復刺激による増強が正常マウスに比べて有意に増大していた.また,ストレプトゾトシン誘発糖尿病ラットの脊髄反射伝達では抑制性経路が減弱していた.以上より糖尿病モデル動物では脊髄の神経の興奮性が上昇していることが示唆された.
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