研究概要 |
wistar系雄性ラット小腸におけるジゴキシン(P-糖たん白の代表的基質薬物)の吸収に対する黄体形成ホルモン(LH)の影響を検討した.吸収実験はin situループ法により行い,またLH濃度はヒト性周期内における血中濃度変化を基に設定した.その結果,ループ内にLH(0.45〜1.5μg/mL)を添加することにより空腸部及び回腸部からのジゴキシンの吸収が有意に増大した.このことからLHはp-糖たん白機能を阻害する作用を有することが初めて示唆された.この阻害効果は濃度依存的で,低濃度(0.15μg/mL)域では影響は認められなかった.プロゲステロン及びエストラジオールを用いて同様の検討を加えたが,ジゴキシンの吸収に対する効果はLHに比べて小さいものであった. 次にLH(15μg)をWistar系雄性ラットに単回静脈内投与し,小腸からのジゴキシン吸収に対する影響を検討した.その結果,LH投与時に血中ジゴキシン濃度が上昇する傾向が見られ,このことから血中LH濃度の上昇により小腸上皮細胞に存在するP-糖たん白の機能が阻害される可能性のあることが示唆された. 健常成人女子に性周期第4日,第12日,第23日,第27日にジゴキシン0.25mgを単回経口投与し,血中ジゴキシン濃度推移を比較した.その結果,LHの血中濃度が上昇する性周期第12日において吸収速度定数の増大,最高血中濃度到達時間の短縮が見られた.これは小腸P-糖たん白機能の変動に伴うジゴキシン吸収動態の変化を反映していると考えられた. 以上の結果より,LHは性周期における血中濃度の増減に伴って種々の程度にP-糖たん白の機能に影響を与え,その基質薬物の体内動態を変動させる可能性のあることが示唆された.これらの知見は閉経前の女性における医薬品の適正使用に極めて重要な示唆を与えるものであり,平成16年度においてこれらの知見に関して更なるデータの集積を目指す.
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