研究概要 |
1.黄体形成ホルモン(LH)を雄性ラットに単回静脈内投与することによりジゴキシン及びビンブラスチンの吸収が有意に増大したことから,LHが血中に高濃度に存在するとき消化管に存在するP-糖たん白の作用が減弱することが示唆された.この結果は,健常成人女性の月経12日目にジゴキシンを経口投与した場合に,吸収速度定数が著しく増大するという知見(Jap.J.Ther.Drug Monit., 2004)を良く反映するものであった.さらに,LHを静脈内投与した場合,LH非投与時に比べてジゴキシンの血中からの消失が遅延した.このことから,LHは小腸上皮細胞のP-糖たん白ばかりでなく,腎上皮細胞に存在するP-糖たん白をも同時に阻害する可能性のあることが示唆された. 2.LHによるP-糖たん白阻害機序を明らかにするために,透過性支持体上に培養したヒト大腸癌由来Caco-2細胞の側底膜側メディウムにLHを添加して,ジゴキシンの頂側膜側から側底膜側への透過に対する効果を検討した.その結果,ベラパミルはジゴキシンの透過を有意に増大させたのに対し,LHはジゴキシンの透過に何ら影響を及さないことが示された.このことから,LHのP-糖たん白阻害はベラパミルのような直接作用によるのではなく,その阻害作用の発現に何らかの生体内要因が関わっているものと推測された.この知見は,今後P-糖たん白の輸送特性を解明していく上で有用な手がかりとなるものである. 3.種々のニューキノロン系抗菌薬(NQ)のラット小腸における吸収挙動を拡散チャンバー法にて検討した.その結果,ロメフロキサシンやガチフロキサシンの消化管吸収はP-糖たん白によって顕著に抑制されていることが見出された.今後これらのNQをモデル薬物として用いることで,より安全に健常被験者の性周期におけるP-糖たん白基質薬物の体内動態変化を検討することが可能になった.
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