ヒトにおいて、薬物の腸管吸収へ与える腸管抱合代謝の影響を、文献値を用いて定量的に解析した。この解析には、Sequential法とSimultaneous法の2つの方法により行った。従来法であるSequential法では、腸管における代謝の寄与が全身クリアランスの算出の際に無視されている。一方、その欠点を排除した新たなモデルによる方法を提示したが、それがSimultaneous法である。この2つの解析法により検討したところ、両解析法ともに、「腸管代謝の影響が大である」という以下のような結果を得た。サルブタモールの腸管アベイラビリティ(Fg)は0.7であるのに対して、肝アベイラビリティ(Fh)は0.89と、FgはFhよりも低く、バイオアベイラビリティへの腸管代謝の影響は肝代謝よりも高いことが示された。さらに、テルブタリンはFgが0.25に対してFhは0.95、さらにエチニルエストラジオールはFgが0.54に対してFhは0.78と、主に硫酸抱合代謝されるこれらの薬物は、腸管抱合代謝が、そのバイオアベイラビリティに大きく影響を与えていることを明らかにした。 そこで、in vitro実験系として我々が確立したCaco-2細胞を用いた評価、解析を行った。先ず、Caco-2細胞サスペンションにおいて、確かにサルブタモールが硫酸抱合代謝を受けること、すなわち検出できることを明らかにした。さらに、その代謝を速度論解析できる充分な硫酸抱合代謝活性であることが示された。そこで、Caco-2細胞monolayerを用いたところ、その透過性と代謝性が評価できること、さらにそれらのデータからアベイライビリティを評価すると、サルブタモールの濃度上昇に伴うアベイラビリティの低下が認められた。これらの結果は、前年までに得られたモデル薬物の手法が医薬品へ展開することができることを示している。したがって、これまでに明らかにしたモデル薬物で認められた飲食物成分の腸管抱合代謝および吸収への影響は、今後さらに種々の飲食物成分についてもその影響を検討できるという基盤が本研究により確立することができた。
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