研究概要 |
1.抗癌抗生物質Daunomycin(DM)のmonoclonal antibodies(mAbs)の作製:DM-GMBS(架橋剤)-牛血清アルブミン(BSA)複合体を抗原に用いて免疫化したBALB/cマウスの脾臓細胞とNS-1ミエローマ細胞をpolyethylene glycol存在下に細胞融合した。次いで、hybridomaのscreening、limitlng dilution、cloningを経て、4種(ADM1-11,28-92,79-31,48)のDM mAbsの作製に成功した。 2.抗体特異性の決定:4種のmAbsについて、subclassの決定、Antibody dilution tests, ELISA binding tests, ELISA inhibition testsを行い、(A)DMの免疫組織化学に有用な抗体の選択、並びに(B)DM酵素免疫測定法の開発に有用な測定系を確立した。(A):ADM1-11-23、及び79-31は下記の免疫組織化学に有用であった。(B)DM-glutaraldehyde-BSA(複合体)を固相抗原とADM1-11-23抗体とを組み合わせた酵素免疫測定法はDMの微量測定系として有用であった。DM、及び類縁体adriamycin, epirubicinのEC50値は各々0.13,0.19,0.2μMであった。 3.DMの免疫組織化学の開発:Wistar ratsにDMを尾静脈からi.v.投与し、24時間後に屠殺してglutaraldehydeで環流固定した。各種組織は常法に従い、paraffinに包埋した。次いで昨年、本研究で我々が癌培養細胞で確立したDM免疫組織化学法(Fujiwara et al. J.Histochem.Cytochem.53:467-474.2005)を肝臓、胃腸管、膵臓、心臓、腎臓に実施した。結果:肝臓:Kupffer細胞、及びグリソン鞘の小葉間静脈の内皮細胞の核、小葉間動脈の平滑筋細胞の核質、小葉間胆管がDM強陽性であった。肝実質細胞の細胞質は殆ど染色されなかったが、細胞核はDM弱陽性であった。胃:胃腺の中心付近に繊細なspot状の免疫反応が認められた。12脂腸:腸陰窩の少数の細胞、及び12脂腸腺細胞にDM陽性細胞が見られた。吸収上皮細胞は殆ど染色されなかった。膵臓:少数の腺房細胞に特徴的な免疫反応が認められた。心臓:心筋細胞の核、及び細胞質中の筋繊維の縦方向に並んで小さなspot状の特徴的な免疫反応物が観察された。腎臓:近位尿細管曲部は免疫反応陰性であったが、その直部から免疫反応が弱く現れはじめ、ヘンレ細管、遠位尿細管に至って次第に増強し、集合管で最大に達し、更に乳頭管に移行するに従い、免疫反応は再び減弱した。また糸球体タコ足細胞、静脈内皮細胞の核、細動脈の平滑筋細胞の核はDM強陽性であった。考察:本研究によって初めてDMの組織細胞内分布が解明された。以上、2年間の本科研研究によって、基本的に"薬剤の組織細胞内分布は免疫組織化学によって解明できる"ことが判明した。本法は従来のオートラジオグラフィーよりも直接的観察、経済性、簡便性、安全性において優れている。今後、本法は薬剤の薬効性、毒性研究において広範に使用され重要な役割を担うことが、十分に期待出来る。
|