研究概要 |
従来、薬剤のpharmacology研究は血液、尿、だ液、脳脊髄液、或いは組織の破砕液を用いて、薬剤濃度の測定を中心に行われている。また薬剤の組織局在性を調べる方法には、放射性同位元素で標識した薬剤を動物や培養組織に投与して取り込ませ、フィルム上に感光させる方法(オートラジオグラフィー)が一般的であった。しかし、この方法は高価で危険なアイソトープ標識薬剤を合成する必要があり、また間接的で煩雑な検出法であることから、薬剤の細胞内における分布状況を詳細に把握することは現実的には極めて困難であった。また、薬剤によっては、薬剤自身の自家蛍光による組織学的検出も可能な場合もあるが(例えば、Daunomycinの場合)、これは特殊な場合であり、また感度的にも不十分である。我々は、これらの方法に代わり、薬剤の組織細胞内分布状態を正確、簡便、且つ安全に検出するための薬剤の免疫組織化学法を開発することを目的として研究を続け、本年までに抗癌抗生物質bleomycinとdaunomycin(DM)の免疫組織化学を開発することに初めて成功した(bleomycinは未発表):本法ではHumam melanoma BD細胞に投与した抗癌剤の癌細胞内での分布を解明した。即ち、glutaraldehydeで固定した細胞漂品を、N-(gamma-maleimidobutyryloxy)succinimde-conjugated DMに対して作製された抗血清と第2抗体horseradish peroxidase-labeled goat anti-rabbit IgG/Fab'を用いてimmunoperoxidase間接法を行い、DAB法で発色反応を行った。本法で重要な点は、免疫反応に先立って細胞漂品をNaBH4還元,HCl処理,protease処理、及び界面活性剤(Triton X-100)処理を必要としているところである。その結果、DMは細胞質中のGolgi regionと細胞核に分布することが明らかになった。このDMの細胞内局在部位はDM自家蛍光法の結果と完全に一致しており、DM免疫組織化学の正確性が確認された。更に、本法は便宜性、検出感度において、DM自家蛍光法を十分に凌駕するものであった。また、本法はDMの類似体であるadriamycin、及びepirubicinにも有用であった。これらの結果は米国組織解剖学会誌J.Histochem.Cytochem.53:467-474,2005に掲載された。以上から、分子中に脂肪族1級アミノ基を有する薬剤は原理的には免疫組織化学の開発が可能になったと考えられる。
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