グリア細胞は、種々の神経伝達物質の刺激に応答して細胞内Ca^<2+>濃度の一過性上昇を示し、この細胞信号を介して間質イオン環境の維持や神経活性物質の放出を行なってニューロン機能を調節することが知られる。知覚神経終末のグリア成分である終末シュワン細胞は、複数の鞘突起を異なる軸索終末に伸ばして互いに連絡し網をなす。この特異なグリア網のどこでCa^<2+>信号が生成し、どのように伝播するかを明らかにする目的で、ラット頬ひげの感覚装置である槍型神経終末の分離膜片標本に蛍光指示薬を取り込ませ、刺激で惹き起こされるCa^<2+>応答を蛍光強度の変化として共焦点顕微鏡のコマ落とし画像で記録、解析した。細胞の刺激は、神経伝達物質ATP100μMで標本全体を灌流する方法と、マイクロマニュピレーターで操作した微小ガラスピペットで細胞局所に触れる方法によって行なった。ATPで刺激した終末シュワン細胞は、20-30秒周期の振動性の細胞内Ca^<2+>濃度上昇を示した。細胞応答は、シュワン細胞体よりも槍型軸索終末に伴行する鞘突起で常に先行し、一回の刺激剤投与で各鞘突起に観察されるCa^<2+>振動の第一波は、それぞれ突起内の特定の焦点で生成した。一方、細胞局所に接触刺激を与えると、刺激された鞘突起がCa^<2+>スパイクを示し、それらは、ときどき波として細胞内、細胞間を伝播して、始めのシュワン鞘の興奮の2-4秒後に、近隣の別の槍型終末を包む鞘突起に達した。これらの観察結果は、槍型神経終末グリア網で、軸索終末に伴行するシュワン鞘がそれぞれ、刺激に応じてCa^<2+>信号を生成する小区域として機能することを示唆する。刺激直後に生じる区域内信号は、各軸索終末の活動をグリアが急性に独立して調節するのに役立ち、区域間を伝播する信号は、隣り合う槍型終末に慢性の統合的調節効果を及ぼすと予測される。
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