皮膚感覚装置のグリアである終末シュワン細胞は、分岐する突起で互いにつながり合い、異なるニューロンの軸索終末間を連絡する網をなす。ラット頬ひげの動き受容器である槍型神経終末の分離膜片標本を用いた、これまでのCa画像解析で、終末シュワン細胞が、神経伝達物質アデノシン5'-三燐酸(ATP)や微小ガラス針の接触刺激に反応し一過性の細胞内Ca^<2+>濃度上昇を示すこと、その細胞応答は波としてグリア網に沿って伝播することが明らかにされ、この細胞信号を介して、グリアによるニューロン活動の調節が行なわれる可能性が提示された。今回は、終末シュワン細胞に発現しているATP受容体の亜型を調べる目的で、これまでと同様の方法で作成した槍型知覚終末標本に刺激剤の種々の類似物質を与え、そのときの細胞応答を比較した。また、Ca信号の生成や細胞間伝播の微細形態学的背景をしらべるため、槍型終末を通常の方法で灌流固定し、超薄切片を作成して透過電顕観察するとともに、名黒と田中の方法(1981)に従い、希薄四酸化オスミウム液で膜性細胞小器官を露出して、走査電顕観察した。分離終末シュワン細胞のATPに対するCa^<2+>応答は、G蛋白共役型プリン受容体P2Y_2を介することが薬理学的に同定された。槍型終末を包むシュワン突起は、従来、細胞小器官に乏しいとされてきたが、今回透過電顕で、細胞質に直径約0.1μmの小胞構造が多数見出され、走査電顕では、それらは網状につながりあった滑面小胞体に相当した。一般に、G蛋白共役型受容体を介したCa^<2+>応答は、細胞内二次信号物質であるイノシトール三燐酸依存性に細胞内貯蔵所からCa^<2+>が放出されることが引き金となる。シュワン突起内の滑面小胞体は、そうしたイオンの貯蔵所として機能すると考えられる。また、透過電顕の強拡大観察で、槍型終末の両面を被う2枚のシュワン突起の間にしばしば、ギャップ結合が見出され、これらは、Ca信号の細胞間伝播に関与すると予測される。
|