研究概要 |
下垂体前葉の性腺刺激ホルモン産生細胞は、黄体化ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)という2種類の性腺刺激ホルモンを血中に分泌する。本研究ではこの2種類の性腺刺激ホルモンの分泌制御機構を明らかにする目的で、去勢手術と雌雄の性ステロイド持続投与を組み合わせた処置を施した8群の雌雄のラット(各群30匹、計240匹)の下垂体組織における遺伝子発現の変化を、DNAマイクロアレイを用いて包括的に解析した。この解析結果から性腺刺激ホルモン産生細胞で特別な役割を担っている可能性のある遺伝子を絞り込む戦略としては、明瞭な雌雄差のある遺伝子に注目した。 その結果、検討したラット11,505遺伝子のうち、下垂体では112遺伝子(0.97%)で遺伝子発現に有意な雌雄差が認められた。さらに、雌雄の去勢ラットにエストラジオール(E2)あるいはテストステロン(T)を2週間持続投与し、同様に遺伝子発現変化を解析したところ、下垂体では上記112遺伝子のうち85遺伝子(75.89%)がE2持続投与で、10遺伝子(8.93%)がT持続投与で、雌雄差と合致する発現変化を示した。 以上の結果から、下垂体における遺伝子発現の雌雄差は、主として血中エストロゲン濃度の差異によって決定されることが示唆された。さらに、下垂体でE2持続投与の影響を受ける遺伝子は、E2で発現が上昇するものと、逆に抑制されるものの2種類に大別されるが、免疫組織化学法によってその遺伝子産物の下垂体前葉での局在を解析したところ、前者の多くはプロラクチン産生細胞で、後者の多くは性腺刺激ホルモン産生細胞で強く発現していた。そこで、今後は、今回の解析で同定された(1)下垂体における遺伝子発現で明瞭な雌雄差があり、かつ(2)エストロゲンにより発現が抑制される遺伝子に焦点を絞り、その性腺刺激ホルモン産生細胞における局在と生理機能を明らかにしていく予定である。
|