研究概要 |
下垂体前葉が分泌する成長ホルモン(GH)とプロラクチン(PRL)は互いに近縁の分子であるが、それぞれ別々の細胞から分泌される。しかしGH遺伝子の転写もPRL遺伝子の転写もともに下垂体特異的転写因子pit-1依存性であることから、GH細胞とPRL細胞はともに共通の前駆細胞から分化するものと考えられている。本研究ではpit-1発現細胞からこれらの細胞は別々に分化するのか、或いはどちらかの細胞が先に分化しもう一方の細胞の母細胞となるのかという点を明らかにしようとした。そのためpit-1、GH、PRLの転写調節領域をPCRにより得、これらの制御下にGFP或いはCFPといった蛍光タンパク質を発現するようなプラスミドを調整した。これらのプラスミドを成熟ラット下垂体前葉の初代培養細胞に導入したところ免疫組織化学的染色によって同定されるGH細胞或いはPRL細胞が標識されることがわかった。しかし、胎生期の分化間もない前葉細胞ではこれらのプロモーターの活性が低く、十分な量の蛍光蛋白の発現は見られなかった。そこで、本年度の実験では単一の前葉細胞に由来するcDNAから各種前葉ホルモンcDNAをPCRにより増幅する技術を開発し、これを用いてGH細胞およびPRL細胞がそれぞれ単一のホルモンmRNAのみを持つのか、あるいは両方を持つもの(somatomammotroph)があるのかを検討した。その結果、単一ホルモンmRNAを持つGH細胞はすべてのGHmRNA細胞の約半数にしか過ぎず、予想外に多くの細胞がGHとPRLmRNAの両方を発現していることが明らかとなった。このことはGH細胞やPRL細胞といった細胞型が固定したものではないことを示唆している。今後は単一細胞の中でGH発現とPRL発現がどの様に制御されているかを明らかにすることがGH, PRL細胞の分化機構解明のためにも重要であると思われる。
|