細胞死促進分子であるBaxをニワトリ胚へ強制発現させて、網膜、脊髄神経節、脊髄運動ニューロンで起こる生理的ニューロン死(発生過程で自然に起こるニューロン死)を解析した結果、ニューロン死の時期に一致して細胞死が増強し、ニューロン死の時期が終了した後の生存ニューロン数は減少することがわかりました。同様の神経細胞集団であってもニューロン死が起こる時期の以前ではBaxが強発現しても細胞死を引き起こさないことも見出しました。興味深いことに頚髄で早期に起こる運動ニューロン死においては、導入されたBaxは死につつある運動ニューロンでは活性型として機能していることが示唆されましたが、頚髄運動ニューロン死自体は増強されませんでした。以上の結果から、Baxがin vivoで機能するためには発現しているのみでは十分でなく細胞死を引き起こすシグナルが必要であることが明らかになりました。またそのような細胞死を引き起こすシグナルは、網膜、脊髄神経節、脊髄運動ニューロンなどで起こるニューロン死においては生き残るべきニューロンにも伝達されうる一方で、頚髄で早期に起こる運動ニューロン死においては死ぬべき細胞に限定して伝達されている可能性が示唆されました。これらの研究成果は、細胞死をコントロールする重要な分子であるBaxの生体での機能に関する今後の研究の進展、及び発生過程で起こるニューロンの生死決定のメカニズムを明らかにしていく上で重要な基盤となると思われます。
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