ラットに唾液分泌の刺激を反復して与えることにより、耳下腺組織の胞大増殖を誘発し、腺細胞として高度に分化し、細胞極性の明瞭な腺房細胞における細胞分裂過程でのゴルジ装置の動態を検討した。蛍光色素による核染で細胞分裂の各ステージを同定し、ゴルジ装置の構造蛋白であるGM130、機能蛋白であるmannosidase II(man II)の動態を蛍光多重免疫染色、共焦点レーザー顕微鏡観察により追跡した。休止期のゴルジ装置は核上部に展開する単一の網状体であり、GM130とman IIが共存している。分裂期に入ると共にゴルジ装置の連続性は失われ、分断されて核上部を離れ、細胞内に分散しはじめる。同時にman IIの局在が失われはじめる。分裂中期から後期にかけてゴルジ装置はGM130単独陽性の無数の集塊にまで分散し、細胞極性は完全に失われる。分裂終期からの嬢細胞内においてゴルジ装置の再集合、極性の回復、man IIの局在の回復が見られる。以上の結果より、耳下腺腺房細胞の細胞分裂時にはゴルジ装置の成分が著しく分散することにより嬢細胞に分配されることを保証するという機構が働くことが判明した。またゴルジ装置の基本要素は細胞膜の集塊とそれに密に関連するGM130から成るものであり、機能性蛋白は一時的に離脱しており、嬢細胞での層板の再形成の過程で再度付加されるものと示唆された。 さらにゴルジ装置の立体的な解析として、本大学電子顕微鏡センターに導入された電子顕微鏡トモグラフィーの装置を活用し、徐々に結果が得られている。
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