造血現象は造血幹細胞という種が、造血微小環境という畑において育つ過程を示すものであり、種、畑いずれの欠陥も結果的に貧血等の原因となる。この造血微小環境は、ストローマ細胞と総称される間質系細胞より構成され、液性造血因子あるいは機能的接着因子を介した造血刺激(促進)機能を有する一方で、異常クローンの排除といった監視機構を含めた造血抑制機能を有し、促進、抑制両者がバランスよく機能することにより、正しい造血現象が維持されていることが理解されるようになった。この抑制的機能については従来全く未知の領域であったが、本研究による検討の結果、造血組織における血球細胞のプログラム死(アポトーシス)誘導機能の存在が明らかとなった。さらに本研究者が開発した人工骨髄培養法を用いた検討により、血球細胞のアポトーシス誘導現象が試験管内でも生体同様に再現されること、その主役がストローマ細胞であることが判明した。ストローマ細胞による血球細胞のアポトーシス誘導機序について検討した結果、ストローマ細胞が複数の因子を介してアポトーシス誘導を制御していること、その一因子としてTNFαが重要な役割を担っていることが明らかとなった。またTNFαと異なる分子量18Kdのストローマ細胞由来膜結合型タンパクがアポトーシス誘導に関与していることが明らかとなり、現在この分子について分離、精製中である。興味深いことに臨床検体を用いた検討により、stem cell disorderである骨髄異形成症候群(MDS)においてこれらのストローマ細胞によるアポトーシス誘導機能が活性化されており、本機構が異常造血細胞クローンの増殖抑制に関与していることが示唆され、MDSの病態形成の解明、新規治療方法の開発につながる結果としてさらに詳細を検討中である。
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