研究概要 |
あえぎ呼吸(gasping)は血圧や組織中の酸素分圧が急速に低下した際に現れる特有の呼吸パターンで、大脳機能が停止しても一定時間継続し、またgasping中に生体環境が改善すれば高い確率で蘇生する為、生命維持に重要と考えられるが、その中枢制御の分子メカニズムは全く不明である。 本研究で、細胞内ATPの低下により開口するATP感受性カリウム(K_<ATP>)チャネルのサブユニットKir6.2を欠失させた(KO)マウスが、gasping制御に障害を示すことが明らかとなった。脳幹部での断頭に際し野生型マウスは平均10数回gaspingするがKOマウスはほとんどgaspingせず、両者のgasping回数に有意な相違を認めた。また麻酔下で短時間5.4-5.8%酸素を負荷すると、野生型が数秒で正常呼吸型からgasping型呼吸へ移行するのに対し、KOマウスは平均約40秒で徐々に呼吸インターバルが増加し、gasping呼吸への移行に要する時間が有意に長かった。更に横隔神経活動記録から、より強い低酸素負荷や呼吸停止の直前にはKOマウスもgaspingすることが判明した。従って、K_<ATP>チャネルはgaspingリズムの生成自体には関与しないがK_<ATP>チャネルなしでは低酸素の検知ないしgaspingリズム生成機構への情報伝達が障害される可能性がある。申請者らは、Kir6.2を脳内で最も高濃度に発現する黒質網様部(SNr)が、エネルギー基質低下の検知に重要な役割を果たす事を明らかにしている(Yamada et al., Science,2001;Yuan, Yamada et al., Neurosci Lett,2004)。そこでSNrで低酸素が検知され、それがgasping生成機構へ伝達される可能性も含め、現在gasping制御メカニズムとKir6.2の関連を軸に更に検討を加えている。
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