研究概要 |
心臓自動能におけるL型カルシウムチャネルの特徴について,電気生理学的および分子生物学的解析をおこなった.本研究ではとりわけヒトに近い心拍数を有するほ乳類として屠殺直後の食用ブタ(生後約6ヶ月,体重約90-100kg)より摘出した心臓標本を用いた. 単離洞房結節細胞は,正常Tyrode液中で80-120回の規則正しい拍動を示した.既知のK^+電流を除去したイオン環境下で記録したL型Ca^<2+>電流は,-40mVより脱分極側で活性化し,心室筋細胞に比較して緩やかな不活性化を示し,300msの脱分極パルスによっても完全に不活性化されない成分を多く含んでいた.Westernblot法によりL型Caチャネルのαサブユニットを同定したところ,心室筋細胞においてはα1C,洞房結節細胞においてはα1Dの発現が強く認められた.ジヒドロピリンジンに対する結合親和性には心室筋・洞房結節間で有意な差は認められなかった.ブタ洞房結節細胞で記録されたL型Ca電流および遅延整流K電流の電気生理学的パラメータを、心筋活動電位シミュレーションプログラム(Kyoto Model)に組込むことにより,1分当たり60-70回の発火頻度を有する自発活動電位をシミュレーションすることができた. 以上のことから,洞房結節細胞と心室筋細胞でのL型Ca^<2+>電流のキネティクスの違いは異なるαサブユニットが関与している可能性が示唆された.また,洞房結節細胞での非不活性化成分は,ブタ標本での長いプラトー相ひいては緩やかな心拍数形成に関与していると考えられた.
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