研究概要 |
われわれはこれまで,モルモット心房筋細胞にパッチクランプ法を適用した実験により細胞膜ホスファチジルイノシトール4,5-二リン酸(PIP_2)が緩徐活性型遅延整流性K^+チャネル電流(I_<Ks>)に対して抑制性の作用をおよぼすことを明らかにしてきた.今年度は,受容体刺激ならびに低浸透圧刺激によるI_<Ks>の増大反応における細胞膜PIP_2の役割について実験を行い,以下の結果が得られた. 1.ほ乳類心筋細胞において,α_<1^->受容体のアゴニストであるフェニレフリン(PHE)はGq蛋白-ホスホリパーゼC(PLC)を活性化してI_<Ks>を増大させることが明らかにされている.モルモット心房筋においてもPHEは用量依存性にI_<Ks>を増大させ,50μMの濃度で最大反応(104.0±7.8%増加,n=7)が得られた.このPHEによるI_<Ks>の増大反応はプロテインキナーゼC(PKC)の阻害剤であるH-7(10μM)存在下で部分的にしか抑制されなかった(70.6±10.3%増加,n=5).一方,パッチ電極を介して細胞内にPIP_2(100μM)を負荷するとI_<Ks>の大きさは約1/3に減少したが,この条件下でPHE(50μM)を作用させるとI_<Ks>に対する増大反応は有意に減少した(33.0±1.7%増加,n=3).この実験結果は,PHEによるI_<Ks>の増大作用にGq-PLC系を介したPKCの活性化に加えて,細胞膜PIP_2の減少も関与している可能性を示唆する. 2.心筋細胞を低浸透圧溶液にさらすと細胞膜PIP_2が減少することが報告されている.一方,モルモット心房筋細胞を低浸透圧溶液(約200mOsm)で灌流するとI_<Ks>は著明に増大した(234.0±34.0%増加,n=7).パッチ電極を介して抗PIP_2抗体(30nM)を負荷して細胞膜PIP_2の作用を抑制するとI_<Ks>は約2倍に増加したが,この条下では,低浸透圧溶液によるI_<Ks>の増加率は有意に減少した(135.3±22.2%増加,n=7). これらの実験結果により,α_<1^->受容体刺激ならびに低浸透圧刺激によるI_<Ks>の増大反応には,I_<Ks>に対して抑制性作用をもつ細胞膜PIP_2の減少が関わっていることが示唆された.
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