研究概要 |
本研究の主目的は、Hodgkin-Huxley型(HH型)ウサギ洞結節モデルをもとに、イオンチャネル・トランスポーター機能の熱力学的(絶対反応速度論的)記述からなる新しい洞結節モデルを作成し、これらモデルシステムの分岐構造(自動能消失過程におけるダイナミクス)を非線形力学系の分岐理論に基づいて解析することである。本年度はまず、洞結節の熱力学的モデル作成とともに、洞結節モデルのデータ再現性・分岐構造に関する解析を行った。ShirokovらのL型Ca^<2+>チャネルモデルを始めとするイオンチャネルの定常マルコフ状態モデルを基に、その状態転移速度を絶対反応速度論的に再定式化し、新しい熱力学的モデルを作成した。次に、HH型モデルと新しいモデルを用いて自発性活動電位とイオン電流動態をシミュレートし、実験データの再現性を比較検証した。さらに、分岐図を作成することにより、L型Ca^<2+>チャネルまたは遅延整流K^+チャネルのコンダクタンス減少によるモデル細胞ダイナミクス(定常状態と周期軌道、その安定性)の変化を比較検討した。 HH型モデルと新しいモデルによりシミュレートされた自発性活動電位とイオン電流動態は、実験で得られた活動電位波形とイオン電流波形をよく再現しており、データ再現性に本質的違いは認めなかった。L型Ca^<2+>チャネルまたは遅延整流K^+チャネルのコンダクタンス減少時のモデル細胞ダイナミクス・分岐構造にも明らかな違いは見出せなかった。HH型モデルの分岐構造については、詳細な解析が完了し、その成果の一部は既に報告済みである(Am J Physiol 285, H2804-H2819, 2003)。新しいモデルについては、現在さらに完全なイオン輸送機構の熱力学的モデル構築を目指し、トランスポーター(Na^+-K^+ポンプ、Na^+-Ca^<2+>交換体)の定常マルコフ状態モデルを用いた絶対反応速度論的記述を試みている。また、家兎洞結節細胞を用いた電気生理学的手法による実験的検証も現在進行中である。来年度は、より完全な熱力学的モデルを作成し、その分岐構造の詳細な比較解析を行うとともに、電気生理学的手法による実験的検証を進めていく予定である。
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