研究概要 |
本研究の目的は、1)洞結節ペースメーカー細胞の新しい熱力学的モデルを作成すること、2)モデル細胞の分岐構造解析手法を確立すること、3)モデル細胞の実験データ再現能と分岐構造を比較解析することによりモデル及び分岐解析の有用性を検証することであった。 熱力学的モデルの作成では、Hodgkin-Huxley(HH)型洞結節モデルをベースに、形質膜イオンチャネル・トランスポーター機能を定常マルコフ状態モデルで記述し、状態転移速度を絶対反応速度論的に再定式化して、新しい熱力学的モデルを構築した。さらには、イオンチャネル電流阻害薬の状態依存性結合・解離動態をも組み込んだ拡張モデルを作成することができた。また、非線形力学系の分岐理論に基づいて、各パラメータに依存したモデル細胞の分岐構造を解析する手法を確立し、分岐構造解析システムを構築した。新しいモデル及びHH型モデルの有用性を検証するために、自発性活動電位・イオン電流動態とイオン電流抑制時の活動電位変化をシミュレートするとともに、自動能に対するL型Ca^<2+>電流(I_<Ca,L>)及び遅延整流K^+電流(I_<Kr>)阻害薬の作用を実験的に解析して、モデルの実験データ再現性を比較検証した。さらに、分岐解析システムを用いて分岐図を作成することにより、I_<Ca,L>・I_<Kr>抑制における新旧モデルの分岐構造を比較解析し、モデルの有用性を検証した。新しいモデルと旧HH型モデルとの比較検討により、1)I_<Kr>抑制時の活動電位変化の再現性においては新しいモデルの方が優れていること、2)I_<Ca,L>・I_<Kr>抑制における分岐構造も本質的に同じ(平衡点が安定化するHopf分岐により自動能が消失)であることが明らかとなった。HH型モデルと新しいモデルの分岐構造が同等であったことから、自動能発生機序解析システム或いは心臓モデル構築用モジュールとしてのHH型モデルの有用性が証明された。
|