平成15年度-平成16年度にわたり、「アクアポリンによる細胞膨張性アミノ酸放出の制御機構」というテーマで研究を行った。細胞が種々の条件のもとで膨張すると細胞膜透過性が亢進し、細胞内に存在する通常では細胞膜を通過し得ないようなアミノ酸分子が細胞外に流出するにとが知られてきたが、それらを簡便に測定する手法がなかった。本研究では、とくに脳神経系において細胞障害に関与するグルタミン酸に着目して、グルタミン酸の測定方法の開発を行った。同人化学(株)の開発した水溶性ホルマザンを生成するテトラゾリウム塩WST-8とグルタミン酸脱水酵素を組み合わせて、簡単に溶液中のグルタミン酸を測定するシステムを作った。このシステムを利用して、代謝阻害薬投与時のグリオーマ細胞C6からのグルタミン酸放出を測定した。代謝阻害剤であるNaN3を細胞に投与して、30分後に細胞外液のグルタミン酸濃度を測定すると、阻害剤投与前の3μMから10μM程度までグルタミン酸の上昇が観察された。このグルタミン酸上昇は種々のClチャネル阻害剤では阻害されず、これまで観察を行ってきた低浸透圧によるグルタミン酸放出と同様のメカニズムによりグルタミン酸が細胞外に放出されることが示唆された。アクアポリンの水透過性を阻害するHgCl2を投与すると、代謝阻害剤によるグルタミン酸放出には、影響が無かったものの、代謝阻害剤非存在下でもグルタミン酸がHgCl2投与により放出されることが明らかになった。この過程は、HgCl2がアクアポリンに作用してグルタミン酸を放出させるというより、HgCl2が細胞膜にダメージを与えたことが示唆された。また、今回の一連の研究のなかで、細胞外にグルコースが存在するとグルタミン酸放出が促されることを見出した。この結果は、高濃度グルコースの組織に対する障害メカニズムと関連があることが予想された。
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