視床下部腹内側核(VMH)は、古くから満腹中枢として知られ、自発行動や性行動の調節にも関わっている部位と考えられている。視床下部室傍核(PVN)は、下垂体後葉ホルモンのオキシトシンとバソプレッシンが産生される部位であるが、近年摂食を制御する中心的な存在として注目されている。オキシトシンがVMHを含む中枢でどのような役割を担っているのかを明らかにするために、オキシトシンの摂食行動と自発行動に及ぼす作用とVMHに発現するオキシトシン受容体(OTR)mRNA量の変化について検討した。Wistar系雄ラットにおいて、摂食を促進する因子であるニューロペプチドY(NPY)とアグーチ関連蛋白(AgRP)の作用に対するオキシトシンの効果について検討した。雄ラットの脳室に留置したカニューレにより、オキシトシン脳室内投与30分後にNPYあるいはAgRPを脳室内投与し、明期の摂食量の変化を1時間および2時間測定した。その結果、NPYおよびAgRPにより促進された摂食は、オキシトシン投与では有意な変化を示さなかった。しかし、オキシトシンを投与しvehicleを投与した群において、摂食は有意に抑制された。次に、オキシトシンをWistar系雄ラットのVMHに投与すると、回転ケージでの行動量が増加する。卵巣を摘出したWistar系雌ラットにおいてもオキシトシンのVMH投与により同様に行動量の増加が観察され、さらに、卵巣ステロイドホルモンであるエストロゲンによりこのオキシトシン作用は増強された。卵巣摘出雌ラットにエストロゲンを投与すると、24時間後に有意にVMHのOTRmRNA量が増加した。また、血中エストロゲン濃度が上昇する発情前期には非発情期と比べてVMHのOTRmRNA量が有意に上昇した。以上のことより、脳内のオキシトシンは、摂食および自発行動の調節に関与し、少なくとも雌ラットのVMHではOTRの発現を誘導するエストロゲン作用により調節されていることが示唆された。
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