本研究は授乳期あるいは成長期に皮膚へ加える触刺激により、成熟後の自律神経機能にどのような影響が出現するかについて検討することを目的としている。本年度は成長期に加えた触刺激により、成熟後、痛み刺激に対する自律神経性反応がどのように変化するかを検討した。実験にはラットを用いた。触刺激は生後3週齢から毎日5分間ずつ5〜6週間、腹部皮膚に加えた(以下、触刺激群)。対照群は同様の条件下で触刺激のみを加えず飼育した。痛み刺激に対する反応についての実験は麻酔下で行った。麻酔下で皮膚にピンチ刺激を加え、血圧と心拍数の反応を検討した。これらの検討は脊髄無傷並びに脊髄を切断(第7-8頚椎間で切断)した状態で行った。その結果、脊髄無傷ラットでは触刺激群、対照群共に皮膚のピンチ刺激により、血圧・心拍数は増加し、その反応の大きさは両群間で有意差を認めなかった。一方、脊髄切断ラットにおいては、腹部刺激時の血圧・心拍数反応が対照群に比べ触刺激群で有意に大きかった。胸部刺激においても触刺激郡の血圧・心拍数反応は対照群と比較して大きい傾向を示したが、両群間の反応に有意差は認めなかった。腹部刺激時の血圧・心拍数反応はアトロピン投与後(副交感神経の遮断)、両群共に増大したが、触刺激群の反応はアトロピン投与後も対照群に比べて有意に大きかった。以上の事実より、成長期に触刺激を加えて飼育した群では、触刺激を加えた脊髄レベルに入力する体性-交感神経反射が亢進することが示唆された。すなわち本事実は、成長期の触刺激により、少なくとも脊髄レベルで体性-交感神経反射の回路に可塑性変化が起こることを示唆する。一方、脊髄無傷時には両群間の反応に有意差を認めなかったことより、痛みに対する脊髄性の自律神経反射を抑える上脊髄性機構が、触刺激群では亢進している可能性も示唆された。
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