食べたものが小腸や大腸に入ってくることが刺激となって腸の粘膜細胞からグルカゴン様ペプチド1(glucagon-like peptide-1 ; GLP-1)が分泌される。GLP-1による非ふるえ熱産生の脳および生理機構に関して皮膚冷却によって誘起される非ふるえ熱産生機構との異同をウレタンラットを用いて検討した。GLP-1を静脈内投与すると50pmol-20nmolの範囲で用量依存性にエネルギー消費が増え、体温が0.2-0.3℃上昇した。GLP-1の脳室内投与をすると熱産生反応は誘起されたが、反応は緩徐であり、その大きさも小さかった。したがって静脈内に投与したGLP-1の作用部位は末梢組織か、血液脳関門に欠ける脳部位であることが示唆された。次に、脳および視床下部が関与しているか否かを検証するために脊髄をC1-C2レベルで切断した標本と視床下部を含む前脳を除脳した標本でGLP-1静脈内投与の効果を調べた。脊髄切断によってGLP-1による反応は大きく減弱したので脳の関与は明らかであったが、除脳はGLP-1反応に影響しなかったので、この反応には視床下部は必須ではなく下位脳幹部が重要であることが分かった。末梢生理機構を明らかにするために、ストレプトゾトシン糖尿病標本、自律神経節遮断薬であるヘキサメソニウムやベータアドレナリン受容体拮抗薬であるプロプラノロール前投与、副腎摘除、迷走神経切断、腹腔神経節摘除を行った。その結果交感神経・副腎髄質系の活性化とこれらから分泌されるノルアドレナリンとアドレナリンがベータ受容体に作用してを介してGLP-1による熱産生反応が誘起されることが明らかになった。これらの末梢熱産生機構は寒冷時の非ふるえ熱産生機構と同一と考えられるが、視床下部を必須とする寒冷時熱産生とは異なり、その統合機構には下位脳幹が重要であることが分かった。
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