脳や精巣に特異的に発現している免疫グロブリンスーパーファミリーメンバーの一つであるBT-IgSF (brain-and testis-specific immunoglobulin superfamily)は、中枢ニューロンやグリア等で発現している。 海馬ニューロンを初代培養すると、始め培養1週間ほどでは、BT-IgSFは神経細胞の細胞膜に均一に分布していた。培養時間の経過と共に、次第に局在化を示す傾向にあり、培養3週間で局在する神経突起部分とそうでない非局在領域が明確になった。グリア細胞のコンフルエントにして、新たにニューロンを添加しコカルチャーを実施すると、局在化の現象は加速された。また、可溶化させたBT-IgSFを塗布した培養皿でニューロンを培養すると、ニューロンの細胞接着や神経突起の伸展は著しく促進されたが、それらの促進効果は、その抗体により阻害された。これらのことから、BT-IgSFは神経細胞接着を制御する細胞接着分子作用を有することが明らかとなった。 一方、培養ニューロンにBT-IgSF遺伝子を導入すると、それらのニューロンは、他のニューロンやグリアなどとの細胞接着性を低下させ、2〜3日のうちに変性、死滅した。同様に、マウス胎児脳脳室内に遺伝子導入すると、脳内のニューロンは同じように死滅し始めたが、変異BT-IgSFではその変性死滅が起こらなかった。これらのことは、正常なニューロンは、BT-IgSFの遺伝子発現をある一定レベル以下に制御するメカニズムをもっていると考えられた。BT-IgSFがそのレベルを超えると、例えば、何らかの非常事態(炎症やトラウマ、あるいは、ある種の変性疾患など)でそうなるのかもしれない。あるいは、周囲の細胞との接着性低下により、細胞増殖や突起伸展が起こったり、あるいは、変性死滅などに至るのかもしれない。
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