脳や精巣に特異的に発現している免疫グロブリンスーパーファミリーメンバーの一つであるBT-IgSF(brain-and testis-specific immunoglobulin superfamiliy)の機能を明らかにするため、中枢ニューロンや精巣での局在を調べた。まず、培養細胞に遺伝子導入した実験から、BT-IgSFはホモフィリックな結合様式を示すことを明らかにした。そこで、BT-IgSF蛋白質塗布皿で培養海馬ニューロンを培養したところ、著しい突起伸展が認められた。抗BT-IgSF抗体処理では、その伸展が著明に抑制された。一方、培養ニューロンあるいは胎児脳ニューロンにBT-IgSFを遺伝子導入すると、BT-IgSFの過剰発現ニューロンは、周囲の細胞との接着性を低下させ、結果として変性・死滅に至った。これらのことから、BT-IgSFはホミフィリックな様式で細胞接着を促進するだけでなく、おそらく、ヘテロフィリックな様式で抑制的に制御をする可能性が考えられた。 精巣ではBT-IgSFの遺伝子発現は円形精子細胞で一過性に増大し、成熟精子でその蛋白質分子が機能することが判明した。現在、抗BT-IgSF抗体処理により受精に及ぼす効果を検討しつつあるが、今後さらに精子の形成過程や受精に至るプロセスでの役割を明らかにする研究を行っていきたい。さらに、アルツハイマー病病態モデル細胞系の変性過程におけるBT-IgSFの関与を解析したが、結局、この変性過程にはBT-IgSFは著しい関与がないとの実験結果であった。しかし、アミロイドを生産する前駆体蛋白質とBT-IgSFの局在がグリア細胞で一致したことから、なんらかの相互作用があると考えられた。
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