今回の研究では、QT延長作用を有する薬物をこのモデルに投与することにより、臨床における薬物使用量と催不整脈作用発現用量の関係を明らかにした。実験では、体重約10kgのビーグル犬をpentobarbital麻酔し、大腿静脈より電極カテーテルを挿入し、先端電極を房室結節付近に固定し、先端電極から高周波を房室結節に対して通電することにより完全房室ブロックを誘発した。この犬を長期生存させ、クラスIII抗不整脈薬:セマチリド、ニフェカラント、アミオダロン、および抗不整脈薬以外の薬物:シサプリド、テルフェナジン(抗ヒスタミン薬)、スルピリド、スパルフロキサシンの臨床1日量の10倍までを経口投与した。アミオダロン以外の全薬物がTorsades depointes(TdP)を誘発した。慢性房室ブロック犬にTdPを誘発した最小用量は臨床1日最大投与量の10倍以内であった。この法則はQT間隔延長作用を有する非循環器用薬物の催不整脈作用に関するセーフティーマージンになると考えられる。今後開発される新規薬物による催不整脈作用を動物実験で検出できるようになれば、臨床試験における不整脈による事故を未然に防ぐことが可能になると期待できる。一方、今回得られた知見を応用することにより、まだ多くの機序の明らかにされていない催不整脈作用を有する薬物がいかに再分極相に関与するチャネルに作用してQT間隔を延長させTdPを誘発するのかなど、さらなる研究成果も期待できる。以上の研究成果は最近調印された日米欧の三極共同のガイドラインICHE14およびS7Bにも一部反映されている。
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