研究概要 |
血液凝固・線溶系は、現在までに生体において止血・病的血栓を制御する液性因子として取らえられ、その重要性は十分に認識されている。トロンビンが凝固の中心にあるようにプラスミンは血栓中のフィブリンを分解するいわゆる線溶系の中心であり、血液中にはその前駆体(非活性化体)であるプラスミノーゲンとして存在する。近年、このカスケードは新たに蛋白溶解系としての機能が注目されるようになり、多方面において病態の制御・治療に重要な役割を担うものと考えられている。蛋白溶解系としては、細胞表面における局所的かつ効率の高い線溶系因子の活性化と考えられ、特異的受容体(uPAR,インテグリンなど)を介する反応や細胞表面にトラップされている各種生理活性物質を切り出すことで生理学的に活性化させ、この反応が蛋白を分解し細胞間隙の形成、細胞遊走などに寄与しているとしてその重要性が指摘されている。 一方、血管内皮細胞は、正常な状態では常に血栓形成に抵抗性を示し血液循環を円滑に保つ役割を担っている。さらに内皮細胞の多機能性は周知のことであり、血管のトーヌスや生理・生化学的反応は多くの研究がなされ報告されている。内皮細胞は線溶系の制御においても中心的な役割を果たしていると考えられ、その形熊・機能の破綻は血栓症、動脈硬化、血管狭窄(肥厚)などさまざまな血管病変を引き起こし、次いで誘発される各種病態へのトリガーとなっているものと考えられる。このように線溶系と血管内皮細胞は従来の抗血栓機能としての相互作用だけでなく、新たに蛋白溶解系(細胞性線溶)としての役割・機能を示すようになっている。本稿では、線溶系の特異的阻害因子であるプラスミノーゲンアクチベーターインヒビター(PAI-1)とα2アンチプラスミン(α2-AP)に注目し様々な研究を行った結果をここに報告する。本研究は、現在なを継続中の研究であり各種虚血疾患における血小板・線溶系因子の相互の関与がより臨床病態に近い状態で解明されつつある。本研究の成果は臨床における新しい疾患予防・治療方法の確立に貢献できるものと考えられる。
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