脳内のマクロファージ様免疫細胞であるミクログリアは、脳虚血や脳傷害時に速やかに活性化される。また、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患においてもミクログリアの病巣部への蓄積と活性化が認められている。しかし、ミクログリアの活性化が神経変性の原因なのか結果なのかいまだに一致した結論は得られていない。これまでに研究代表者らは、神経障害時に細胞から大量に放出されるATPがミクログリアを活性化し、腫瘍壊死因子(TNF)を放出させることを報告してきた。本研究では、まずその細胞内シグナルの詳細を検討し、TNF産生・放出制御におけるP2X_7受容体とMAPキナーゼの役割を明らかにした。また、この系においてP2X_7受容体のイオンチャネルとは独立したチロシンキナーゼを解する新しい情報伝達の可能性も示した。さらに、ATPにより活性化されたミクログリアが神経に対して果たす役割(傷害的なのか保護的なのか)を明らかにする目的で、ミクログリアと神経細胞の共培養を用いて検討した結果、P2X_7受容体の活性化を受けたミクログリアはグルタミン酸神経毒性から神経細胞を保護すること、さらにこの効果はTNF変換酵素阻害薬TAPI-2やTNF中和抗体により有意に抑制されたことから、TNFが中心的役割を果たすことが示された。また、リコンビナントTNFにも神経保護効果が確認された。一方、LPS刺激ではミクログリアから大量のTNFを放出するにもかかわらず神経保護効果は全く認められなかった。さらに、このミクログリアの神経保護効果をin vivoにおいて検討する目的で、ラット脳虚血モデルへのミクログリアの脳室内移植を試みた。ミクログリアの移植により虚血による神経細胞死ならびに運動障害が抑制され、この効果はミクログリアのP2X_7受容体活性化により強まる傾向も認められた。従って、ミクログリアのP2X_7受容体は神経変性治療の新たな標的になりうる可能性が示唆された。
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