マウスで部分肝切除後6時間以内に、再生肝内のHO-1が転写レベルで著明に誘導され、HO活性の上昇も認められた。一方、組織学的検討の結果、部分肝切除後門脈周辺に、HO-1高発現細胞であるクッパー細胞の有意な増加を伴う活発な血管新生が起こっていることが認められた。血管形成は肝再生に不可欠であり、血管発生と血管新生の二段階に分けて考えられる。HO-1発現の血管新生への関与が報告されているので、肝再生時のHO-1誘導と血管形成との関係について培養細胞を用いて検討した。まず、血管発生について調べる目的で、マウス胚性幹(ES)細胞から血管内皮細胞へと分化誘導させるin vitroの実験系にヘミンを添加することによるHO-1誘導の影響を検討した。培地中にヘミンを添加すると、最終濃度50〜100μMで濃度依存的な血管形成促進効果が認められ、100μMヘミン添加群においては、active controlのVEGF添加群より強い血管形成促進効果が観察された。次に、血管形成の過程で血管内皮細胞の増殖、遊走、管腔・毛細血管網形成の各段階を、ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)を用いて検討した。VEGFはこれらの実験系でいずれの段階に対しても促進的効果を示したのに対し、ヘミン添加によるHO-1誘導は増殖、遊走においてはVEGFと同等に促進したが、CD31の発現には影響を与えず、細胞増殖を有意に促進する濃度のヘミンは管腔・毛細血管網形成に対してはむしろ抑制的に働いた。以上の実験結果からHO-1誘導は幹細胞の血管内皮細胞への分化・増殖を促し、管腔・毛細血管網形成の準備に関与すると考えられる。肝再生初期にHO-1が一過性に誘導されることと、やや遅れてVEGFが発現することを考えあわせると、血管形成において各々が異なった役割を果たしている可能性が示唆された。
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