研究概要 |
私たちは多能性、自己増殖性等、ES細胞と神経幹細胞の間で共通している性質を分子のレベルで明らかにすることを目標としている。その為の手掛かりを得るためには、これら幹細胞で共通に機能する発現調節領域を同定することが重要であると考え本研究課題に取り組んだ。昨年度までに、ES細胞でのSox-2遺伝子の発現を司るエンハンサーとして同定した2つのエンハンサーSRR1,SRR2がいずれも神経幹細胞でも同様に機能することをES細胞からの神経細胞のin vitro分化系、neurosphere法、子宮内胎児脳への電気穿孔法によるレポーター遺伝子の導入法により明らかにした。また、詳細なミュータント解析から、少なくともSRR2に関しては、これら2種類の幹細胞で全く同一のコア配列を介して機能していることを明らかにした。私たちは、以前、ES細胞ではSRR2はOct-3/4-Sox-2複合体の作用によりそのエンハンサーの未分化状態特異的活性が保たれていることを証明しているが、上記の結果から、神経幹細胞では、SRR2は、Sox-2タンパク質がBrn1等の脳で発現するオクタマー因子と複合体を形成し作用しているのではないかと考えた。そして、私たちは今年度、Brn1,2,4にSRR2を活性化する潜在的能力があるか否かを検討し、事実、これらのタンパク質がいずれもそのような能力を有することを証明した。 また、SRR2エンハンサーのトランスジェーニックマウスを用いた解析も行った。その結果、SRR2はマウス個体の中でも神経幹細胞で機能することが確認できた。但し、興味深いことには、SRR2は脳全体の神経幹細胞で機能するのではなくて、終脳の中でも、腹側に位置する領域に存在する神経幹細胞で特異的に機能することが明らかになった。さらに、この領域特異性は、それぞれの領域におけるBrnタンパク質の発現量、並びにSRR2エンハンサーへの結合性の違い(ChIPアッセイによる検証)により説明できることを明らかにした。
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