新規がん抑制蛋白質TSLC1群による細胞接着と極性形成の制御に関する研究

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 15590262
• 研究機関: 国立がんセンター研究所
• 研究代表者: 村上 善則 国立がんセンター, 研究所・がん抑制ゲノム研究プロジェクト, 室長 (30182108)
• キーワード: がん抑制遺伝子 / TSLC1 / MPP3 / 細胞接着 / 細胞極性 / DLG

研究概要

我々が同定した肺非小細胞がんの新規がん抑制蛋白質TSLC1は免疫グロブリン様接着分子に属し、膜の裏打ち蛋白質群と結合して細胞接着のシグナルを細胞骨格や下流の分子に伝達する。そこで、TSLC1蛋白質による正常上皮細胞の接着を介した増殖の制御や極性形成の生理的機構を明らかにすることを研究目的として、まずTSLC1の関わる経路上の分子群の同定を試みた。TSLC1蛋白質の細胞内領域を標的として酵母2ハイブリッド法により結合蛋白質を検索し、Membrane protein palmitoylated 3(MPP3)分子を同定した。TSLC1,MPP3が共に発現しているHEK293細胞のlysateを抗TSLC1抗体で免疫沈降し、抗MPP3抗体を用いたウエスタンブロット解析により検出すると、MPP3分子が確認された。またGST-pull down法により、TSLC1のC端に存在するPDZ結合モチーフを介して、MPP3分子が直接TSLC1と結合することを示した。さらにHEK293細胞で、TSLC1とMPP3とが細胞接着面で共局在することを共焦点顕微鏡解析により明らかにした。MPP3は、ショウジョウバエのがん抑制蛋白質Discs large(Dlg)のヒト相同体の一つで、細胞の極性形成に関与すると考えられている。従って、TSLC1は細胞内領域でMPP3と結合し、細胞接着を介する細胞極性形成の制御に関わっていることが示唆された。さらに、MPP3と構造類似性を示す複数の分子がTSLC1と結合することを見出し、これらの分子群の、各組織や生理的状態における使い分けについて検討している。

研究成果

• [文献書誌] Fukami, F., Murakami, Y.et al.: "Promoter methylation of the TSLC1 gene in advanced lung tumors and various cancer cell lines."International Journal of Cancer. 107. 53-59 (2003)
• [文献書誌] Fukuhara, H., Murakami, Y.et al.: "Association of a lung tumor suppressor TSLC1 with MPP3, a human homologue of Drosophila tumor suppressor Dlg."Oncogene. 22. 6160-6165 (2003)
• [文献書誌] Fukami, T., Murakami, Y.et al.: "Isolation of the mouse Tsll1 and Tsll2 genes, orthologues of the human TSLC1-like genes 1 and 2 (TSLL1 and TSLL2)."Gene. 323. 11-18 (2003)
• [文献書誌] Ito, T., Shimada, Y., Murakami, Y., Imamura, M.et al.: "Involvement of TSLC1 in progression of esophageal squamous cell carcinoma."Cancer Research. 63. 6320-6326 (2003)
• [文献書誌] Mao, X., Seidlitz, E., Ghosh, K., Murakami, Y., Ghosh, H.P.: "The Cytoplasmic Domain is Critical to the Tumour Suppressor Activity of TSLC1 in Non-Small Cell Lung Cancer."Cancer Research. 63. 7979-7985 (2003)