研究概要 |
上皮細胞間、並びに上皮と間質細胞との接着を介した相互作用は、細胞の増殖、分化、細胞死、運動性など重要な生命現象に深く関わり、その破綻は、がんをはじめ様々な病態を生じることが知られている。そこで、我々ががん抑制遺伝子として同定した細胞接着分子TSLC1とその経路上の分子群を標的として、正常上皮における接着を介した増殖の制御や極性形成の生理的機構の解明を試みた。 この結果、以下の三つの知見を得た。 1)TSLC1の結合蛋白質を探索し、アクチン結合性蛋白質4.1群の一つである4.1N分子を同定した。4.1N分子は、以前にTSLC1結合蛋白質として同定したDAL-1/4.1Bと異なり、大腸上皮や神経系細胞で強く発現し、組織特異的な機能を示す可能性が示唆された。 2)TSLC1蛋白質は、そのC端に存在するPDZ結合モチーフを介して、膜結合性グアニレート・シクラーゼ群に属するMPP1,MPP2分子と結合することを見出した。MPP1,MPP2も様々な組織で発現し、以前にTSLC1結合蛋白質として同定したMPP3と構造類似性を示す。しかしHEK293細胞の接着の初期には、MPP1,MPP3ではなくMPP2が接着部位に局在してTSLC1,4.1Bと複合体を形成し、初期の接着形成に関わることを見出した。 3)TSLC1のsiRNAを導入してHEK293細胞でのTSLC1の発現を欠如させると、コラーゲン塗布プレート上での上皮様細胞形態が崩れ、細胞接着が未熟となることを見出した。 以上の結果から、TSLC1が4.1群蛋白質、膜結合性グアニレート・シクラーゼ群蛋白質と複合体を形成し、細胞接着や接着を介する上皮様細胞形態の構築に必須の働きをすることが示された。
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