本研究では、心臓に発現している6種類のプロスタノイド受容体(EP_2、EP_3、EP_4、FP、IP、TP)を欠損するマウスを用いて、圧負荷心肥大モデルを作成し、心筋リモデリングの発生や防御に関与するプロスタノイドをin vivoにおいて解析した。さらに、in vitroにおいて心筋細胞の肥大と非心筋細胞の増殖に対するcicaprost(選択的IPアゴニスト)の作用を検討した。 In vivo解析では、野生型およびプロスタノイド受容体欠損マウスの胸部大動脈を慢性的に狭窄することにより、圧負荷心肥大モデルを作成した。すべてのマウスの心重量/体重比は、狭窄4週間後に著しく増加したが、その値は野生型マウスに比較しIP欠損マウスで有意に高かった。また、IP欠損マウスの心筋細胞横断面積と心線維化面積は、野生型マウスに比較し著しい増加を認めた。しかし、EP_2、EP_3、EP_4、FPおよびTP受容体欠損マウスの心重量/体重比、心筋細胞横断面積および心線維化面積は、いずれも野生型マウスと差を認めなかった。したがって、圧負荷によって産生された内因性PGI_2は心肥大を抑制するが、PGE_2、PGF_2αおよびTXA_2は圧負荷による心肥大形成に大きな役割を演じていないと考えられる。 In vitro解析において、野生型マウスの非心筋細胞にPDGFを処理すると著しい増殖を認めた。Cicaprostは、この増殖を著明に抑制したが、IP欠損マウスの非心筋細胞の増殖を抑制しなかった。一方、cicaprostは、野生型マウスの心筋細胞においてcardiotrophin-1による肥大化を抑制しなかった。以上の結果から、圧負荷心肥大を抑制するPGI_2の作用に、非心筋細胞の増殖抑制が関与すると考えられる。
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