スクシニルCoA合成酵素βサブユニット(SCS-βA)は、クエン酸回路の一部を担う酵素で、細胞内におけるエネルギー産生に重要な役割を果たしている。研究代表者らは、このSCS-βAが赤芽球中でヘム合成の初発反応を触媒する赤血球型アミノレブリン酸合成酵素(ALAS-E)と結合することを見いだし報告した。スクシニルCoAはALAS-Eの基質の一つであるので、この結合は効率のよい基質の供給に役立つものと考えられた。また、SCS-βAは鉄芽球性貧血の原因と考えられるALAS-E変異のうち、特定の変異酵素とは結合しないことを見いだし報告した。これらのことから、SCS-βAとALAS-Eの結合の異常が鉄芽球性貧血発症の原因となるものと考えられる。本研究では、このSCS-βAのヘモグロビン合成における役割を明らかにするため、RNA干渉法(RNAi)によりSCS-βA遺伝子の発現の特異的な抑制することを試みた。まず、SCS-βAcDNA上の4ヶ所の、他の遺伝子とは相同性のない領域を選択し、それぞれの塩基配列に対応するshort interfering RNA(siRNA)を合成し、その遺伝子抑制効果をHeLa細胞を利用して判定した。その結果、4配列中3配列でSCS-βAmRNAの発現抑制効果が認められた。次に、その内、もっとも抑制効果が強いと考えられたsiRNAを赤芽球系培養細胞株であるYN1細胞に導入を試みたが、遺伝子発現抑制効果は認められなかった。その後の種々の検討の結果、YN1細胞や他の赤芽球系培養細胞株では一時的な遺伝子の導入が非常に困難であることが判明した。このため、発現抑制に十分な量のsiRNAが導入できなかったので、赤芽球系細胞ではsiRNAによる遺伝子抑制が観察できなかったものと考えられた。以上の結果をふまえ、今後は恒常的に細胞内short hairpin RNA(shRNA)を発現させるベクターを構築し、それを赤芽球系細胞株に導入し、shRNAを発現させて、その表現型を解析する予定である。
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