昨年度行なった解析の追加実験を行なった。具体的にはC57BL/6の雄のマウスの黒質に、アデノ隋伴ウイルスを用いてNDiI遺伝子を導入し、遺伝子感染の安定性とトランス遺伝子発現を免疫組織化学法で解析した。遺伝子注入後1年後でも、FITCラベルされたNDiIタンパクは注入サイト周辺で検出されはじめ、6-30週間後と同様、広領域でしかも安定して長期にわたりNDiIタンパク発現が維持されることが判明した。さらに、ドーパミン(DA)細胞を可視化するTHのモノクローナル抗体でローダミンラベルとのダブル染色を行なうと、黒質領域における大半のTH陽性細胞でNDiIタンパクが発現していることが明確となった。一方、ミトコンドリアのマーカー(チトクロームオキダーゼのサブユニットIVのモノクローナル抗体)とのダブル染色の結果から、発現したNDiIタンパクは、ミトコンドリアに局在していることが確認された。また、NDiIタンパクが実際に機能しているかどうかは、黒質部分の凍結スライスを用いて、NADHジアフォラーゼ活性の活性染色により確認ができた。そしてMPTPを用いたパーキンソン病動物実験モデルでは、NDiI遺伝子を注入した側の黒質では、intactの黒質と比較して、MPTPの毒性で引き起こされるDA細胞の細胞死が劇的に抑制された。またNDiI遺伝子を注入した側の線条体DA濃度は、正常の60-80%程度を保ち、反対側の10%未満に比較し、顕著な防御効果が観察が再度確認され、エネルギー代謝の視点からドーパミン細胞自体の機能回復、損傷防止、残存細胞の再生を促すという観点は、新しいパーキンソン病の治療・予防方法の開発をもたらす可能性がある。
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