研究概要 |
これまでに我々はラット心筋芽細胞株H9c2でカルレティキュリン(CRT)遺伝子を高発現させると、細胞の分化誘導に伴いアポトーシスが誘導されることを見いだした。本研究では我々はその分子機構に関わるカルシウムホメオスタシスの修飾とそれに伴う細胞生存シグナルAkt経路の制御機構への影響について新たな分子機構を明らかにした。 既にCRT高発現細胞株ではPP2A遺伝子の転写レベルでの発現促進が見いだされていた(Kageyama K.,Ihara Y. et al.,J.Biol.Chem.,2002)。本研究ではPP2Ac遺伝子の転写レベルでの発現調節機構について、ラットPP2Ac遺伝子プロモーター領域のルシフェラーゼベクターを構築し、カルシウム代謝の修飾剤であるThapsigargin, BSPTA-AMの遺伝子プロモーター活性への影響について解析した。既報では、PP2Aを介したAktシグナルのカルシウム代謝による制御はないとされていたが、我々は、長時間(2時間以上)の遷延する細胞内遊離カルシウムの上昇維持によるストレスがPP2A遺伝子の転写レベルでの発現促進を促し、かつAktの脱リン酸化、不活性化を引き起こすことを確認した。遺伝子プロモーター領域の解析により、このカルシウム依存性の遺伝子発現制御にはCRE(cAMP responsive element)が関与することも明らかとなった。またこれら一連のシグナル変化が細胞のアポトーシス感受性と相関することを確認した。一方、CRT高発現のカルシウムホメオスタシスへの影響については、CRT高発現が酸化ストレス下で小胞体Ca2+-ATPase(SERCA2a)のストレス感受性を増強することを見出した。以上の結果はCRT高発現がカルシウム代謝の乱れを引き起こすことにより、細胞生存シグナルを抑制するという新たなシグナル伝達経路を示している。
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