研究概要 |
チミジンホスホリラーゼ(TP)はチミヂンをチミンと2-デオキシリボース-1-リン酸に可逆的に変換する酵素であり、多くの癌でその発現が上昇することが報告されている。TPは癌の増殖、浸潤、転移、腫瘍血管新生と深く関わっている。一方、TPは浸潤マクロファージやリウマチ様性関節炎など炎症部位にも高く発現していることが確認されており生体の免疫反応にも何らかの関わりをもつと考えられた。我々はTPの腫瘍免疫および抗炎症における機能、腫瘍増殖、腫瘍血管新生、腫瘍浸潤における機能を解析したいと考えた。すでにTPノックアウトマウスの方がリステリア菌を投与した場合に野生型にくらべて菌の排除能力が高いこと、免疫反応を抑制するサイトカインであるIL-10産生が低いことを確認している。本研究では1)U937細胞に野生型、変異型TPのcDNAをトランスフェクトし過剰発現株を得た。PMAで刺激した場合したあとIL-10mRNAの発現をリアルタイムPCRで調べTP過剰発現細胞株で親株細胞より高く発現することを確認した。マクロファージによって傷害をうけるEL-4 lymphoma細胞をTPノックアウトマウスに移植した場合は野生型にくらべて顕著にその増殖が抑えられる。また2)免疫機構により排除できるとされているメラノーマB16細胞を移植し、ノックアウトマウスではその増殖が野生型より抑えられることを確認した。さらに3)TPノックアウトマウスと野生型マウスにdextran sodium sulfateを飲用させて大腸潰瘍を生じさせた。そのときの体重減少の程度はノックアウトマウスの方が大きく、炎症部位に発現するIL-10の量は低いことを確認した。4)浸潤を担うと考えられているMMPの発現を調べたところ親株前立腺癌細胞PC細胞に比べPCTP細胞ではMMP1,MMP2,MMP9、MT-MMPの発現が高いことを確認した.
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